第104回:ペルシャ・イラン~花のように笑って暮らせる国に 2026.5.1 「シンドバッドの冒険」「アリババと40人の盗賊」「空飛ぶ絨毯」…。「千一夜物語」(アラビアンナイト)に出てくる物語は、子供の頃に胸を踊らせながら読んだものです。ペルシャの王に妻が千一夜にわたって語って聞かせる物語は、アラブの民話が元になっています。9世紀に編纂され、その後にヨーロッパで次々と話が追加されて明治初期に日本に伝わりました。 「千一夜物語」には花が様々な形で出てきます。「アラジンと魔法のランプ」には『百花咲き乱れる中に噴水が水を吹きあげておりました』『誰があの娘の 頬に咲く バラの花びら 摘むのやら』などの記述があり、花は豪華さや美しさの象徴として登場します。ペルシャでは昔から花が咲き乱れていたのでしょう。 ペルシャの国名は1935年に、歴史的・地理的・民族的により広い意味を持つイランに改称されました。今、アメリカ、イスラエルと戦争をしている、あのイランです。連日のように激しい戦闘状況が報じられ、無残に破壊されたイラン国土の写真を目にしますが、そこに花が写ることはありません。花はどこへ行ったのでしょうか? イランは花のない国になったのでしょうか? そうではありません。イランは彩りと香りに包まれた“花の都”だと、女優のサヘル・ローズさんはネットで語っています。彼女はイラン・イラク戦争の真っただ中の1985年にイランで生まれ、4歳の時に空爆で家族と生き別れました。8歳の時に義母とともに来日しましたが、その時「花屋さんが少ないな」と驚いたといいます。それほど、イランは花屋さんが多かったのです。 サヘルさんの名前からして、花にまつわるものでした。生まれた時に付けられた名前は空爆で分からなくなり、義母が「サヘル・ローズ」という名前を付けてくれました。ペルシャ語で「砂浜に咲くバラ」という意味です。 サヘルさんによると、イランの春はクロッカス、ムスカリ、ヒヤシンス、ラナンキュラス=写真左から=など沢山の球根花で彩られることから始まります。どんな家も季節の花を飾ることを欠かさず、何かがあれば「花のように笑って」という願いを込めて花を贈り合う習慣が根付いています。日本では女性の美しさを花にたとえることが多いのですが、イランでは女性に限りません。小さな花が集まって可愛らしく咲くアジサイは、誰かをほめる時のたとえに使われます。 中でもチューリップは国民に親しまれている花です。チューリップは織物やタイルの模様になり、小説や神話にもよく取り上げられます。 ペルシャ・イランは千一夜物語の昔から “花の都”であり続けました。が、今年の春はクロッカスやムスカリの花は咲いても、人々の心が癒されることはなかったでしょう。
※参考図書 元読売新聞大阪本社編集委員。社会部記者、ドイツなどの海外特派員、読売テレビ「読売新聞ニュース」解説者、新聞を教育に活用するNIE(Newspaper
in Education)学会理事などを歴任、武庫川女子大学広報室長、立命館大学講師などを勤めました。プレミアムフラワーの花コラム
胸躍らせて読んだ「千一夜物語」

※写真は「図説 千夜一夜物語」花は豪華さと美しさの象徴
花のない国になった?

日本は花屋さんが少ない

砂浜に咲くバラ
春は花に彩られて始まる

サーベルとチューリップ

イランの国旗=写真=の中央に描かれた国章は、4つの三日月と真ん中のサーベルを表しています。そして全体の形はチューリップのようにデザインしてあります。古代ペルシャでは「祖国のために兵士が戦死したところに赤いチューリップが咲く」という伝説があり、チューリップは勇敢さの象徴にされているのです。再び百花が咲き乱れる日は?
胸躍らせて読んだ物語は、幻想と花に満ちた魅力あふれる国が舞台でした。いつになったら、焦土と化したその国に再び「百花が咲き乱れ」、人々が「花のように笑って」暮らせる日々が戻ってくるのでしょうか。◇
「アラビアンナイト別巻」(訳者:前嶋信次、発行所:平凡社)
「千一夜物語と中東文化」(著者:前嶋信次、発行所:平凡社)
「図説 千夜一夜物語」(著者:A・J・ルスコーニ、イラスト:エドモンド・デュラク、出版社:而立書房)
※参考サイト
「女優サヘル・ローズさんが語る故郷・『花の都』イラン」
「外務省 外交史料館 ペルシャからイランへ国号改称」
「世界の国旗」
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コラムライターのご紹介
福田徹(ふくだ とおる)
花の紀行文を手掛けたのをきっかけに花への興味が沸き、花の名所を訪れたり、写真を撮ったりするのが趣味になりました。月ごとに旬の花を取り上げ、花にまつわる話、心安らぐ花の写真などをお届けします。






















