花コラム
花コラム第87回:四季の最後を飾る花~石蕗って、どう読むの?
第87回:四季の最後を飾る花~石蕗って、どう読むの?
2024.12.1 花の漢字には難しい読み方のものがあります。例えば杜若(かきつばた)、向日葵(ひまわり)、蒲公英(たんぽぽ)、秋桜(こすもす)、百日紅(さるすべり)、馬酔木(あせび)、山茶花(さざんか)、このコラムの第84回でご紹介した女郎花(おみなえし)……。 「石」は小学校1年生で習う教育漢字で、音読みは『せき』『しゃく』『こく』、訓読みは『いし』。「蕗」は大学・一般程度とされる漢字検定準1級の漢字で、音読みは『ろ』、訓読みは『ふき』。「石蕗」なら『せきろ』『いしふき』などと読みたくりますが、違います。 石蕗は名前に「蕗」の字があっても、蕗の仲間ではありません。キク科ツワブキ属の常緑多年草で、原産地は東北南部より南の本州、四国、九州や朝鮮半島南部、中国東南部など。晩秋から初冬にかけて花径3㎝前後の、キクのような黄色い花をつけます。江戸時代から観賞用として栽培されてきました。俳句の世界では「石蕗の花(つわのはな)」は冬の季語になっています。 葉の形は蕗に似ており、艶があることから、「葉に艶のある蕗」という意味で『艶葉蕗(つやばぶき)』、あるいは『つやぶき』と呼ばれました。それが『艶蕗(つわぶき)』に転化したと言われています。 山陰の小京都と言われる津和野=写真=のホームページによると、遠い昔、この地には石蕗が群生していました。ここに住みついた人々は「つわぶき」の可憐な花に目をとどめ、その清楚で高雅な風情に魅せられて、自分たちの住む里を「ツワブキの野」と呼び、それが町名の「つわの」となったと言われています。石蕗は町の花に指定されています。 「石の上にも三年」(辛抱すれば、いつかは成功する)、「雨垂れ石を穿(うが)つ」(小さな努力でも根気よく続ければ、最後に成功する)。石は辛抱や努力の大切さを説く諺に出てきます。 ※参考図書プレミアムフラワーの花コラム
それでは、四季の最後を飾る花「石蕗」は、どう読むのでしょうか?難しい漢字ではありませんが、読み方は一筋縄ではいきません。日本語は難しい
正解は『つわぶき』です。「石」には『つわ』の読み方はないはずですが…。日本語は難しいですね。「蕗」の字があっても蕗の仲間ではない
《たまゆらの夕日に凛と石蕗の花》(吉村ひさ志)『石』を当て字にした理由は?
ここまでは分かります。では、どうして『艶蕗』が『石蕗』と書かれるようになったのでしょうか? 海岸近くの岩場や崖などで自生することから連想して、『石』を『艶』の当て字にしたということが考えられます。『岩蕗』、『崖蕗』でもよかったかもしれませんが、これでは花の名前としては固すぎます。津和野の地名のもとになった
津和野のある島根県西部は、かつては石見(いわみ)と呼ばれていました。「石」の字に馴染みのある津和野の人が『石蕗』と名付けたということも考えられます。
※写真は「しまね観光ナビ」から転載「石」の字はツワブキにぴったり
石蕗の花言葉は「困難に負けない」。花の少なくなる季節に、養分の少ない所で花を咲かせる姿に由来しています。《辛抱して努力すれば、困難に負けない》。こう繋げれば、「石」の字はツワブキにぴったりのように思えてきます。
先人が何を、どう考えて花の名前をつけ、漢字を考えついたのか? あれこれ思いを巡らせるのも一興です。◇
「日本の花を愛おしむ」(著者:田中修、発行所:中央公論新社)
「ツワブキ」(著者:奥野哉、出版社:誠文堂新光社)
※参考サイト
「みんなの趣味の園芸 NHK出版」
「薬草と花紀行のホームページ」
「歴史と文化の薫る日本のふるさと 津和野町」
「津和野町観光協会」
「花言葉-由来」
「聖ヶ丘ニュース 校長ブログ ツワブキの花言葉」
「俳句のSalon 石蕗の花」